・ERPパブリッククラウドで実現するFit to Standard
・将来を見据えた業務改善の必要性
・従来の基幹システムの文化を変えていく
SAP社がERPパブリッククラウドへ注力する理由
そしてCTCが考えるFit to Standardの価値とは?
グローバルでERPパブリッククラウドへ資源を注力するSAPジャパン株式会社(以下SAP社)と、2022年10月にパブリッククラウド市場へ参入した伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下CTC)。SAP社の稲垣利明氏と、CTCの重藤倫氏、山下俊一郎氏にその背景と顧客の基幹システムの最適化について話を聞いた。
––––SAP社はグローバルでも日本でも、ERPパブリッククラウドに資源を注力しています。まずは、その理由をお聞かせください。
稲垣:SAP社は創業以来、一貫して「企業の変革」や「標準化」をメインテーマに掲げ、さまざまなビジネスを進めて参りました。そういう意味では、ERPパブリッククラウドに注力するのは、“時代の流れ”として当然だと思っています。 “時代の流れ”とは何なのかというと、1つ目は「業務アプリケーションをクラウド利用する環境が整ってきた」こと。2つ目は、「SAP側の準備が整った」こと。3つ目は、「経営者のマインドの変化」です。これらの3つの変化が、SAP社がパブリッククラウドへの注力する理由として大きく影響していると思います。
SAPジャパン株式会社
バイスプレジデント
Enterprise Cloud事業統括
稲垣 利明
––––一方でCTCも、2022年10月にパブリッククラウド市場への参入を決められています。
重藤:背景としては、稲垣さんが今おっしゃっていたこととほぼ同じです。たとえば、GX(Green Transformation)の観点でもクラウドは明らかに有利ですし、そもそも日本の競争力が低下する中でDX(Digital Transformation)に対応できないというのは、日本特有のシステムの事情も大いに関係していると思います。これを打破するためには、やはりパブリッククラウドをはじめとする今あるテクノロジーやツールを使い倒したうえで、どのようにビジネスの現場ひいては世の中に貢献するのか––––––そういった流れの中で、先行してパブリッククラウドに取り組んでいこうというのが、弊社としての決断です。
稲垣:CTCの新しい取り組みに関しては、SAP社としても非常に注目しています。パブリッククラウドを活用していく際の肝となるのが、「標準で提供されているERPパブリッククラウドのクリーンコアをいかに保ちながら使うか」ということ。クリーンコアを保ちつつ自社特有の機能や要件を実装していくには、「SAP Business Technology Platform (以下SAP BTP」を繋げて、うまく棲み分けて活用していただくことが重要です。CTCさんはSAP BTPの領域に非常に力を入れて取り組んできていただきましたし、そのCTCさんがパブリッククラウドにも力を入れるとなると、やはりお客様にとっても「全体としてインテグレートされたソリューションを提案してもらえる」と大変心強いですよね。
山下:ありがとうございます。弊社の取り組みを歴史的に見てみると、SAP BTPから入って、その後にパブリッククラウドに参入しているのですが、実は考え方としては逆なんですよね。「F2S(Fit to Standard)を実現するためにはどうすればいいのか」を考えた末に辿り着いた技術が、結果としてSAP BTPだった。そしてSAP BTPで蓄えられたものによっていろいろな準備が整い、昨年10月から「SAP S/4HANA® Cloud, public edition」にも参入させていただいたという流れになります。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
流通事業グループ
流通システム第3事業部
事業部長
重藤 倫
今ではなく将来を見据えた
業務改革の必要性
––––基幹システムの最適化にはさまざまな課題に対応する必要がありますが、日本企業の情シスのあり方について、どのような考えをお持ちでしょうか。
稲垣:私は20年前からSAP ERPや企業の業務改革について取り組んで参りましたが、私自身、「言っていること」「やりたいと思っていること」は驚くほど変わっていません。当時からお客様に対して「業務を改革するためにBPR(Business Process Re-engineering)に取り組みましょう」「SAP ERPの標準機能を使って、効率化を実現しましょう」というメッセージを絶えず発信してきました。その手段としてSAP ERPを活用すること自体は、あまり否定されることもないですし、比較的スムーズにご理解いただけます。ですが、実際にプロジェクトを進めていくと、「全体の方針は理解できるけど、そのように変えられたら、今の業務が回らなくなる」と総論賛成・各論反対になってしまう。それがどんどん積み重なっていき、最終的に意図した形にならなかった…というパターンがこれまでも少なくなかったように思います。これはやはり、「日本の情シスのあり方」という観点で考えたときに、元々情報シスは「現在の業務を効率化するためのITを、短期間に精度高く開発する」というのが出発点だったことが関係しているのかなと。我々がやろうとしているのは、あくまでも業務改革。「将来的な目標を達成するために、業務をこう変えていかなければいけない」という、情シスとはまったく別のアプローチです。
重藤:情シスの歴史を振り返ったとき、そのミッションはあくまでも「ビジネス側が要求したことを、どうやって効率的に最適に実現するか」というもので、我々SIerも同様です。ビジネスの現場とは離れてしまっています。でも、今ではビジネスとデジタルは一体化していますよね。価値観やミッションが刻々と変わる中で、大きく変われていないんですよ。“業務と一体となってビジネスを改善する立場のITプロ”という人が日本企業にはまだ少ない印象なので、DXが思うように進まない背景には、そういった理由もあるのかなと思います。
山下:たとえば「SaaSを入れよう」「F2Sしよう」となったときに、我々としてはお客様の「体制」にもすごくこだわっています。つまり「体制の中に業務を変えられる方がいて、その方がいつも会議に出てくれるような状態でないと、業務改革はうまくいかないですよ」と、プロジェクトをスタートする段階で、まずお客様としっかり話す場を設けていますね。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
流通システム第3事業部
ERPビジネス部 部長
BTPアンバサダー
山下 俊一郎
––––日本における従来の基幹システムの文化を、SAP社とCTCでどのように変えていきたいと考えていらっしゃいますか。
稲垣:SAPの活用事例を日本と海外で見比べたときに感じるのは、日本の現場は非常に優秀だということ。一方でそれは、現場の努力で改善されてしまうがゆえに、本質的な改革が進まない理由にも繋がっているのかもしれません。そしてこの背景には、「変化への恐れ」みたいなものもあると思うんです。でも、大切なのは「今この瞬間の業務効率だけを見ていていいのか」ということ。この瞬間だけを切り取るのではなく、今後どのように業務が変わっていくかを見据えた上で、勇気を持ってしっかりと改革できるかというのが、現代の企業に突きつけられた命題だと思います。冒頭でお話ししたような環境の変化があったことで、パブリッククラウドやSaaSで提供されているものを使うことが今、当たり前になりつつある。オンプレミスの時代には難しかったことが、現在の環境なら実現できるのではないかと思っていますし、実現するべくSAP社とCTCさんでお客様を後押しして、課題を解決できればと思います。
重藤:目の前で起こっている社会変化に対応していくための手段としては、やはりF2Sは必然ですよね。企業の価値を考えたときに、今までは「利益が一番」という比較的シンプルなものでしたが、現代は決してそうではない。GX,SX(Sustainability Transformation)など新しい価値観がどんどん出てくる中で、一つひとつ自分で作っていたら間に合いません。「価値観=競争」なので、それに対応していくには、F2S以外ありえないと思います。
山下:そういったストーリーがお客様の中にも浸透していくのは、すごく大切なことですよね。そのときに、お客様としては「そうは言っても、本当に自分たちにやりきれるのだろうか」とか「クラウドでセキュリティは大丈夫なのだろうか」といろいろと不安に思われることが多いと思うんです。その不安を技術的な側面から取り除く事がCTCへの期待値だと思いますし、一緒に課題に取り組んでサポートすることができると思っています。
CTCのBTPソリューションFigues
Figuesはフランス語で「イチジク無花果」を示す。「HANAを変えることなく果実を得る」をコンセプトに、BTP活用を伴走型で支援します。
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