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2019導入事例

NTTアドバンステクノロジ株式会社
(導入:株式会社シグマクシス、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社)

「Fit to Standard」の導入手法の徹底とSAP Cloud Platformの活用で
マルチテナント型のSAP S/4HANA Cloudを6カ月の短期間で国内本社に導入

NTTグループの技術系中核企業として、AI、クラウド、IoTなど最新技術を用いたソリューションの開発を手がけるNTTアドバンステクノロジ株式会社。長年にわたってSAP ERPを利用してきた同社の基幹システムには、約800本ものアドオンが存在し、現場に利便性をもたらす反面、変化への対応を阻害する要因となっていた。そこで同社は、2025年問題への対応を機にSAP S/4HANA Cloud, multi-tenant edition への移行を決断した。 導入プロジェクトでは、6カ月間という過去に例のない短期導入と、連結決算などで必要となるNTTグループ本体とのインターフェース連携が大きな課題となった。ここでは「Fit to Standard」の手法を徹底したシグマクシスのプロジェクトマネジメントと、SAP Cloud Platformの活用における日本タタ・コンサルタンシー・サービシズの高度な知見が大きな貢献を果たし、同社は見事に困難なプロジェクト課題を克服している。



🔸アドオンが約800本にも達し基幹システムの維持が困難に

「未来を拓くチカラと技術。」をコーポレートミッションに、顧客と共に進化し続けるNTTアドバンステクノロジ(以下、NTT-AT)。同社では、世界屈指の情報通信研究所であるNTT研究所の技術を核として、半導体技術、ネットワーク技術、メディア処理技術、言語処理技術など、国内外の先端的技術を活かしたさまざまなソリューションを提供している。 同社の業務を支える基幹システムは、2000年頃にSAP ERPを導入して以来、継続的にアップグレードを行いながら、20年近くにわたって運用を続けてきた。この間の経緯について、ソリューション事業本部 DX事業企画室 室長の都筑純氏は次のように振り返る。

「SAP ERPは全社の基幹システムとして一定の成果をもたらしましたが、業務部門からの要望に応じてアドオン開発を進めてきた結果、その数は約800 本にも達し、複雑化したシステムは維持し続けるのが困難になっていました。過去の開発経緯を知る人も社内に少なくなり、まさにブラックボックスの状態。他の日本企業と同様、当社においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)が重要なテーマとなっているだけに、経済産業省も警告する『2025 年の崖』への対応は、もはや先延ばしできない喫緊の課題となっていました」 また、約20 年の運用の中でシステムの老朽化が進みパフォーマンスが低下した結果、期末の処理に時間がかかるなど、現場の業務部門からは不満の声も聞かれるようになっていた。加えて、ITガバナンスの面で課題があるExcelを使った外部処理や、実績データなどをリアルタイムに閲覧できないことによる意思決定のタイムラグなど、経営陣からもいくつかの課題が指摘されていた。

こうした状況を踏まえ、現行のシステムをこのまま使い続けていては急速に変化するビジネス環境に対応できないという危機感から、同社は2025年のECC6.0の保守サポート終了を見据えて既存システムのリプレースを決断し、具体的な検討に着手した。



都筑 純氏 NTTアドバンステクノロジ株式会社 ソリューション事業本部 DX事業企画室 室長

 

🔸DXを推進するための基盤としてSAP S/4HANA Cloudの導入を決断

新たな基幹システムとしてNTT-ATが白羽の矢を立てたのは、SaaSとして提供されるマルチテナント型のSAP S/4HANA Cloud(SAP S/4HANA Cloud, multi-tenant edition。以下、SAP S/4HANA Cloud)だった。日本企業の事例では海外グループ会社への導入はあるものの、財務会計、管理会計、販売管理、購買管理およびプロジェクト管理に関わる複数モジュールを本社の国内業務向けに一括導入した例は、2018年の時点では報告されていなかった。

その中で、同社がSAP S/4HANA Cloudを採用した背景には、クラウドをベースとした最先端のサービスを活用したシステム改革を通じて、自社のDXを強力に推進するための基盤を確立するという経営陣の強い決意があった。 「アドオンに依存した従来の個別最適の手法では、いつまでたってもDXの推進に向けて舵を切ることができません。経営スピードを高めていくためには、古いビジネスプロセスを自ら改め、IT部門をコンパクトにして、限られた人的リソースをDXにシフトすることで、変化に柔軟に対応できる体制整備が不可欠というのが経営陣から出された方針でした」(都筑氏)

同社がオンプレミス型でもシングルテナント型クラウドでもない、マルチテナント型のSAP S/4HANA Cloudを選んだ理由はここにある。開発の自由度の高いオンプレミス型やシングルテナント型では、アドオンに依存している現状を打破することができないからだ。 さらに同社には、このプロジェクトを通じてクラウドの最新技術とノウハウを習得し、NTT-AT開発のRPA(Robotic Process Automation)ツールと組み合わせることで、顧客への新たな提案に向けたショーケースにするというビジネス上の狙いもあった。



🔸チェンジマネジメントの視点を踏まえたシグマクシスのプロジェクト提案を高く評価 次のステップで重要になるのが、導入パートナーの選定だ。誰も経験したことのない新しいチャレンジだけに、導入パートナーには同社の意思を受け止めることができる豊富な経験に加えて、高度なプロジェクトマネジメント力と開発力が求められる。その中で複数の候補からNTT-ATが最終的に採用したのが、シグマクシスのプロジェクト提案だった。

「シグマクシスからの提案には、単にクラウド型ERPを決められた納期で導入するだけでなく、社内のプロセス改革とチェンジマネジメントを通じたDXの視点が明確に示されており、これはまさに当社が目指す未来の方向性と一致するものでした」(都筑氏) シグマクシスは基幹システムの刷新にあたり、業務プロセスを徹底的に標準化し、外部環境変化への対応力を備えたクラウドサービスを活用することが、企業のDXを推し進めるためには必須としている。さらに、クラウドサービスに即した標準業務プロセス導入のための変革の必要性の理解浸透、社員の意識改革などのチェンジマネジメントも併せて重要視する同社の支援体制が評価された。プロジェクトの具体的な進行という観点でも、厳しいスケジュールの中でFit to Standardの手法を活用したシグマクシスのプロジェクト支援を通じて、短期導入の見通しが立ったことは大きなポイントだった。



🔸Fit to Standardを徹底しながら現場のチェンジマネジメントを促進

プロジェクトがキックオフしたのは2018年10月。NTT-ATは、その6カ月後の2019年4月に無事にSAP S/4HANA Cloudのサービスインを迎えることができた。当初の予定通りと言えば簡単に聞こえるが、これほどまでの短期導入の実現は、やはり導入パートナーの手厚い支援なしには考えられなかったと都筑氏は振り返る。 「最初のポイントとして挙げられるのが、初期段階における緻密なアセスメントです。シグマクシスからの提案を受けて、プロジェクトでは従来のFit&Gapのように"Gap"を洗い出す手法は採用せず、業務をシステムに合わせていくFit to Standardのアプローチを徹底しました。まず簡易分析のDiscovery Workshopを実施して、実際に動くシステムを操作しながら機能性や適合性を確認。その後はシグマクシスが提供するプロセスフローをベースに、新たなシステム上で業務が成立するかについて、これまでの概念にとらわれることなくスクラップ&ビルドのコンセプトで討議を行いました」

討議の結果、新たなシステムで対応が難しいと判断された業務については、ビジネスプロセスの変更(BPR)で解決するか、PaaSのSAP Cloud Platformで外部にシステムを作って連携するか、その他の手段で対応するかなどを検討。また、シグマクシスは持ち前の業務知識や他社の事例も活用して課題を整理しながら、プロジェクトを成功させるための最適な方法を導き出していった。 「シグマクシスは当社の業務プロセスを深く理解し、粘り強いマネジメント力を発揮してくれました。Fit to Standardが難しい部分についても、いったんは標準で進めて稼動後に再度議論をするといった提案もあり、こうした難しい判断を的確にサポートしてもらえたおかげで、プロジェクトが停滞することはありませんでした」(都筑氏)

またNTT-AT側でも、財務、経営企画、営業推進などの業務主幹とシステム担当のデジタルトランスフォーメーション推進部、現場の経理部門、販売・購買部門など、約30名の少数精鋭でプロジェクトチームを編成。初期段階ではどうしても「既存業務との違い」に目が行きがちだったが、強力なトップダウンでチェンジマネジメントを後押しした結果、現場の意識は変化していったという。「プロジェクトの過程では、経営トップの強い意志が徐々にプロジェクトチームに浸透していくのがわかりました。こうした中で業務プロセス全体を理解する財務部のキーパーソンが強いリーダーシップを発揮し、複数の業務が重なる領域でも相手に歩み寄りながら決断を促してくれました」(都筑氏)



🔸SAP Cloud Platformの活用とRPAツール「WinActor」

プロジェクトのもう1つの重要なポイントは、インターフェースの開発だった。NTTグループの傘下にある同社では、連結決算などの関係でグループ本体とのデータ連携が多く発生するが、この点について都筑氏は「アドオンが使えないSAP S/4HANA Cloudを導入するからにはインターフェース開発が避けられず、当初からSAP S/4HANA Cloudとの親和性が高いSAP Cloud Platformの活用が必須と考えていました」と話す。そこで力を発揮したのが、シグマクシスがプロジェクトパートナーとして起用した日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(以下、日本TCS)だった。

「SAP S/4HANA Cloudと連携するAPIに関する高度なノウハウを備えた日本TCSの技術力は、十分に信頼に値するものでした」(都筑氏)

このインターフェース開発は、プロジェクト初期段階で高いハードルに直面する。当初、SAP S/4HANA Cloudの標準機能での対応が難しい機能についてはSAP Cloud Platformを使って開発を行う方針を立ててはいたものの、アセスメントで50数本ものインターフェース開発が必要であることが明らかになったのだ。しかも、6カ月間の導入期間から逆算すると、インターフェース開発には2カ月程度の時間しか費やすことができない。 「これは想定外で、プロジェクトの最も困難な課題だったと思います。そこで日本TCSのメンバーと膝を突き合わせて期間短縮のための議論を行い、優先順位、使用頻度、難易度、リスクの高さなどから初期開発のターゲットを徹底的に絞り込み、最終的に連結決算などNTTグループ本体との連携で必要な機能を中心に17 本のインターフェースを開発する結論に至りました。テストや本番環境への移行も含めると、これだけでもスケジュール通りに進めることは簡単ではありませんでしたが、パートナー各社の積極的な支援もあり、何とか開発スケジュールを厳守することができました」(都筑氏)

連携するシステムには古いものも多く、すべての仕様書が揃っているわけではなかったが、その中で日本TCSは開発要件を紐解き、連携するシステムベンダーとの確認作業も含めて、細かく対応していったという。 一方、SAP Cloud Platformでは実現が難しい機能や比較的簡易な一括入力や帳票作成などの機能については、NTT-ATの開発チームも参画してNTT-AT開発のRPAツール「WinActor」で開発し、SAP S/4HANA Cloudと連携させることとした。

このWinActorは新システムへのデータ移行にも活用され、移行のシナリオを自動化することで、手作業と比べて大幅な時間の短縮に成功している。 「NTT-ATが開発したWinActorは、さまざまな業界における定型業務の省力化や作業品質の向上を支援するRPAソリューションとして、現在当社がもっとも注力している事業の1つです。それだけにWinActorとクラウドの組み合わせは、今後DXを推進していく上でも重要なテーマとして位置付けています。今回のプロジェクトでも、WinActorの価値をいかにして活かすかは重要なポイントでしたが、画面(WebUI)やAPIを用いたSAP S/4HANA Cloudとの連携においてノウハウを得たことは大きな意義がありました」(都筑氏)



🔸新設の「DX事業企画室」を通じた日本のDXへのさらなる貢献 NTT-ATは2019年4月のSAP S/4HANA Cloudの稼動を最優先としたことから、ユーザーへの本格的な展開は本稼動後となった。当初は一部のユーザーに戸惑いが見られたものの、導入後では初となる7月の四半期決算は無事に終えることができたという。今後は本稼動後に明らかになった課題も踏まえて、細かなシステム改善や外部システム、インターフェースの追加開発を行い、新システムの完成度を高めていく考えだ。 業務の効率化の面では、現場からは当初の狙い通りの成果が報告されている。例えば、請求書発行が従来のExcelから外部システムへと切り替わり、簡単に出力できるようになった。請求書の送付も他システムとの連携が可能になったことでアウトソーシングが実現し、業務負荷の軽減につながっている。 IT面では、SaaSによってインフラ管理が容易になったことでハードウェアコストや運用コストが大幅に削減され、IT部門は貴重な人的リソースを新たな施策にシフトすることが可能になっている。2019 年10月に新設された「DX事業企画室」は、こうした成果から生まれたものだ。

今後、NTT-ATはDX事業企画室を通じて、クラウド型ERPの導入手法やSAP Cloud Platform、WinActorを利用したシステム連携のノウハウを、顧客に向けて提案していく考えだ。今回のプロジェクトの手応えを得て、都筑氏は最後に次のように話してくれた。

「このプロジェクトを牽引するカギになったFit to Standardやスクラップ&ビルドの概念は、当社がDXを推進していく上での指針ともなるものです。その意味では、今後も引き続きシグマクシスとの連携を強化しながら、当社の基幹システムの完成度を高め、そこで得たノウハウを外部に発信して日本のDXに貢献していきたいと考えています。また、当社のDX技術は日本企業の海外グループ会社にも積極的に提案していきたいと考えていますので、グローバル市場の動向にも精通した日本TCSには、これからも二人三脚の関係の中で高度な知見の提供を期待しています」

マルチテナント型のSAP S/4HANA Cloudを、わずか6カ月で国内の基幹業務向けに導入するという大きな決断で、システム刷新を成功に導いたNTT-AT。NTT-ATのWinActorも含めた同社の先進事例は、付加価値の高いソリューションとして、今後、国内外の多くの企業のDXを加速する大きな推進力となるだろう。




図1:Fit to Standardのコンセプト




図2:Fit to Standard(F2S)の3つの分析ステップ




図3:SAP S/4HANA Cloudの導入によるシステムの変化



会社概要 NTTアドバンステクノロジ株式会社 所在地:神奈川県川崎市 設立:1976年12月 資本金:50億円 売上高:562億円(2019年3月期) 社員数:1,865名(2019年3月31日現在) 事業概要:トータルソリューション事業、セキュリティ事業、クラウド・IoT事業、AI×ロボティクス事業、グローバル事業 https://www.ntt-at.co.jp/



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