2019導入事例

エーザイ株式会社(導入:アビームコンサルティング株式会社)

デジタル×ESGで企業価値を数値化
先進的なESG経営でさらなる価値創造に取り組む

ビジネスの持続的成長に向け、ESG(Environment, Social, Governance)への取り組みを企業価値にどう結びつけるか、多くの企業が模索している。エーザイ株式会社は、ESGに基づく経営状況を定量的に可視化するため、アビームコンサルティングの「Digital ESG」サービスを活用。ERPに蓄積した財務データとESGデータを含む非財務データを用いて重回帰分析を実施し、企業価値の創造を加速させている。



🔸ESGとROEを両立する「ROESG」で企業価値を向上

革新的な創薬、医薬品アクセスの向上に力を注ぐエーザイは、ESG経営に取り組む日本企業の先駆けだ。同社の専務執行役CFOであり、早稲田大学の客員教授も務める柳良平氏は、現代の企業経営にESGが与えるインパクトを強調する。「ESGに代表される非財務情報の価値がバランスシートの価値以上に大きくなっている中、ESGを企業価値に結びつけながら、持続的な成長に導くことが重要となります」 エーザイは現在、中期経営計画「EWAY 2025」のもと「がん」と「神経」領域への集中的な取り組みを進めているが、その根底を支えるのは企業理念「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」だ。

「使命としての患者様満足の増大と結果としての売上/利益の向上という考えこそがESG経営であり、エーザイは30年前からhhcの理念を通して実践してきました。ESGを長期的な企業利益と両立できるよう、企業価値の代表値であるROE(自己資本利益率)とESGを組み合わせるROESG*モデルの追求です」(柳氏) 近年、世界のESG投資は31兆ドルを突破。企業の市場価値における無形資産の割合も1975年の20%に比べて2015年は80%と、企業価値に占める比率が逆転し、ESG経営の重要性は高まる一方だ。 * ROESG:一橋大学特任教授 伊藤邦雄氏がESGとROEの両立のために提唱する造語



柳 良平 氏 エーザイ株式会社 専務執行役 チーフフィナンシャルオフィサー (兼)チーフIRオフィサー 早稲田大学客員教授 博士(経済学)

 

🔸ROESGモデルで重要なPBR(株価純資産倍率)の向上

柳氏の考案したROESGモデルの追求において重要な指標が、「PBR(株価純資産倍率)」だ。PBRは1倍までが財務資本の価値で、1倍を超えて初めて非財務資本やESGの価値となる。人材、特許や研究の価値、環境問題への対応などが株主から認められれば、必然的にPBRは1倍以上になる。 「ファイナンス理論でも、PBRが1倍以上の場合は長期のROEの関数になることが証明されています。このフレームワークでは付加価値を介して経営者が訴求するESGと、世界の投資家が訴求するROEは、相反することなく同期します」(柳氏)

ROESGモデルによると、非財務の価値を認められた企業のPBRは上がっていく。過去10年で見ると日本は1、イギリスは2、アメリカで平均3倍程度だが、落ち込む必要はないと柳氏は語る。 「日本の国力からすればPBR2程度の実力はあるはずで、ESGの価値を明示できれば確実にPBRは向上できます」 例えばエーザイは、熱帯地域特有の感染症治療薬を2020年まで無償配布するプロジェクトを推進中だ。インドに自前の工場を持ち、生産性を高めることで稼働率を上げ、同じ工場で最新薬を生産して欧米に輸出することで利益を確保し、ブランド価値も高めていく。10年スパンで見ると連結会計で黒字化を見込んでおり、結果的に「患者様の命を救い、その結果として利益をもたらす」ことにつながっていく取り組みだ。



非財務資本とエクイティ・スプレッドの同期化モデルの提案(ROESGモデル)



🔸Digital ESG Quick Data AnalysisでESGのKPIとPBRの相関関係を分析


柳氏は欧米企業と伍していくには、ESGに関する膨大な重要指標を定量的に分析し、企業価値との関係を経営層や投資家に開示する必然性を感じていた。そこで着目したのがアビームコンサルティングの「Digital ESG」サービスだ。 「デジタルとESGの相性が良いことは理解していたものの、詳細な分析を行うリソースを社内で確保することは困難でした。その中で分析プラットフォームと優秀な人材を持つアビームコンサルティングとの出会いはまさに運命的でした」

同社は2019年6~8月にかけて、Digital ESG Quick Data Analysisによる、ESGのKPIとPBRの相関関係の分析に乗り出した。ESGのKPIは、CO2排出量、女性管理職比率、人件費、研究開発費、障がい者雇用率など約100種類を抽出。平均で10年前まで遡ってデータを用意し、約1,000の説明変数を確保した。さらに研究開発費など、長期で株価に効いてくる遅延浸透効果も考慮して10年分の期ずれを折り込み、約10,000件のデータを用いて重回帰分析を実行。その結果、統計学的に信頼性が高く、PBRと正の関係を示す要素を20個弱得ることができた。

「障がい者雇用率、育児休暇や時短の取得率、健康診断の受診比率など、人を大切にする指標が価値創造に結びつくことが多数客観的に示されました。矛盾する結果も一部にあり、例えばCO2の排出量がPBRに正の要素となることがわかりました。これは操業度との相関性が高く、工場の稼働率が上がればCO2の排出量は増えるということです」(柳氏) もう1つの考察は、分析結果が、エーザイの事業へのインパクトと長期投資家の関心を示すマテリアリティ・マトリックス(サステナビリティにおける重要課題評価)とほぼ合致していたことだ。研究開発を重視するエーザイでは物質的な資本より、人的資本や知的資本が重視される。その観点からも、今回得られたPBRの相関関係の強さはエーザイのマトリックスと合致していた。



🔸ESGの価値を世界の投資家に発信し持続的成長や企業価値の向上へ

今後の課題は、より多くのデータを収集し、時系列を追いながらESGのKPIをより精緻に見ていくことだ。分析で得られた示唆をエーザイのマテリアリティ・マトリックスに反映させていくことも考えられる。定量的な分析に基づく結果は、事業計画や経営の意思決定に与える影響も大きく、短期的な利益確保に傾きすぎて長期的な価値を損なうような判断の回避にもつながる。分析結果を統合報告書や株主説明会などで投資家に開示し、統計学的な証拠をもとにPBRに折り込まれることを示すことも検討中だ。「ESGの価値を多くの投資家に認めてもらい、持続的成長や企業価値の向上につなげたい」と柳氏は期待を寄せる。

また、分析の結果を経営層や投資家にわかりやすく示すため、Digital ESG Platformで提供されるコックピットの導入も検討している。ESGが企業価値に与える影響が大きくなると、将来的には非財務データも財務データ並みのガバナンスが求められる可能性が高い。SAP ERPを会計システムとしているエーザイだが、将来的には非財務情報も会計監査に耐えうる基盤で管理し、監査法人がチェックする体制を整えるにも、SAP ERPとの連携が重要となる。 今回のプロジェクトでESGが企業価値に与える影響を改めて確信したという柳氏は、エーザイだけでなく日本企業全体でESG経営を推進し、PBRを高めていきたいと語る。 「デジタル活用のリソースが限られている企業では、専門性の高いパートナーと組むことが重要です。日本企業全体の価値の底上げにつながるよう、アビームコンサルティングには今後も卓越した人材と高度なシステムでROESGモデルを裏付けるための支援を期待しています」



会社概要 エーザイ株式会社 設立:1941年12月6日 資本金:449億8,600万円(2019年3月末現在) 従業員数:単体3,140名 連結10,683名(2019年3月末現在) 事業概要:医薬品の研究開発、製造、販売および輸出入 https://www.eisai.co.jp/



パートナー企業

アビームコンサルティング株式会社