三菱マテリアルの全社DXプロジェクトは
「ものづくり」を中心としたMMDX2.0へと進化
基幹システムに選んだのはRISE with SAP on AWS
三菱マテリアルが推進する「経営改革」と「MMDX2.0」
三菱マテリアルでは現在、RISE with SAP on AWSの導入プロジェクトが進められているが、同社はなぜSAPシステムとAWSを選択したのだろうか。これには三菱マテリアルが取り組んでいる経営改革と、MMDX(三菱マテリアル・デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション)が深く関係している。
まず三菱マテリアルが挑んでいる経営改革は4つある。CX、HRX、DX、業務効率化だ。CXでは、組織・経営管理を中心に、最適なグループ経営形態への改革を目指している。HRXは、人事制度や働き方の改革であり、変化に適応できる自律的な人材の確保、育成を目的としている。次にDXだが、同社ではこの言葉をデジタル・トランスフォーメーションではなく、ビジネス・トランスフォーメーションと捉え、データとデジタル技術を活用した改革を、全社を上げて進めている。業務効率化では、組織や仕事のやり方の見直しを通じ、働き方の改革を目指す。
そしてこれら4つの経営改革は、三菱マテリアルの全社方針の実現に向けた、組織能力の向上を実現するために、一体となって推進されているのである。
先に紹介したMMDXは、まさにこのDX部分に該当する。MMDXは2020年度より開始され、経営に関する深い理解を得るための、論議や全員活動を目指した役員合宿を、3回ほど実施。これと同時にDX推進本部を発足するとともに、「事業DX」や「ものづくり」、「基盤整備」や「業務効率化」、「人材基盤」など多岐にわたる具体的なMMDX計画を作成し、実行してきた。
そして昨年10月より、これをさらに進化させるべく、これまで進めてきたテーマを整理。「ものづくり」に関するテーマを中心とし、これを加速させるための、より具体的なフェーズに進んだ。これがMMDX2.0である。
これまでのDX戦略では、データとデジタル技術を活用し「ビジネス付加価値向上」、「オペレーション競争力向上」、「経営スピード向上」の3本柱を推進するため、21のテーマを進めてきた。一方のMMDX2.0では、ものづくりの強化と従来のテーマの着実な実行を行うためにテーマを再編成するとともに、体制強化などを実施。そして新たな柱として掲げられたのは「事業系DX」、「ものづくりDX」、「研究開発DX」の3つである。これらを支えるのが、データ利活用基盤や業務効率化、人材育成・風土改革などを含む「全社共通DX」と「基盤(ERP)整備」だ。
セキュリティを維持しつつ不確実なニーズにも対応するAWSを採用した「MMCGクラウド」
このMMDXを推進するにあたり三菱マテリアルでは、全社共通のクラウドプラットフォームを構築している。その要件は、セキュリティを維持しながらも、不確実なニーズに対してスピーディに対応できるクラウドであることが求められた。さらに機能の成熟度や、技術者のコミュニティの多さといった点も重要視。クラウドベンダー各社の事例などをこうした点に着目し、総合的に検討した結果、メインクラウドに選ばれたのがAWSだ。なおこのメインクラウドを同社では「MMCGクラウド(三菱マテリアルグループクラウド)」と呼んでいる。これには「これが標準のクラウドである」ことを定着させる目的もあった。
MMCGクラウドには大きく2つの環境がある。「各カンパニー向け環境」と「全社共通環境」だ。まず各カンパニー向け環境は、業種業態の異なる3つのカンパニーが、それぞれ柔軟にDXを推進できるように用意している領域である。各カンパニーは、システムごとに独立したアカウントで自由に設計、開発できるようになったため、画一的だった従来のIT基盤から大きく進化している。一方の全社共通環境は、IT部門が主体となり、共通機能をサービスとして、すべての利用者に提供する領域である。
2021年11月から稼働を開始したMMCGクラウドは、現時点で35のシステムが稼働しており、文字通り同社のメインクラウドとなっている。
グローバルでデータ駆動型経営を実現する「RISE with SAP on AWS」
そして現在、同社が進めているのが、MMDX2.0の一貫である基盤整備としてのRISE with SAP on AWS導入だ。その目的は、MMDXの実現に向け、グローバルレベルでのデータ駆動型経営を実現するためであり、この中核としてERPを整備することにある。
従来の基幹システムは、国内・海外で別々に稼働していたことや、システムが散在していたため、データの利活用は困難であった。三菱マテリアル全体でデータの利活用を実現するためには、標準化されたグローバル共通のシステムが求められたのである。さらに新たな基幹システムには、他にもさまざまな期待や要件があった。
例えば経営側の視点では、経営層が必要なアクションを取るために、見たい情報が見たい粒度で、見たいタイミングで確認できること、そして事業再編やM&Aに迅速に対応できる環境などが求められた。システム側の視点では、パッケージ化やクラウド化といった、トレンド活用のための最新技術の適用や、連携が可能な点や、スクラッチ開発から脱却と運用保守性向上などが求められた。さらに業務標準化が業務改革のきっかけとなることや、標準化
による社内外の人材流動化実現への期待、DXにおけるデータ蓄積・提供の基盤としての期待などもあった。
こうしたことから選ばれたのは、グローバルデファクトスタンダードであるSAPシステム、すなわちRISE with SAP on AWSだ。板野氏は「私達がSAPシステムとAWSを使うのは、いわば後発です。しかし後発だからこそ、多くの事例を参考にできるグローバルデファクトスタンダードの採用が、重要です」と語っている。
AWSとのタッグで目指す競争力のある企業グループへの進化
RISE with SAP on AWSは、グローバルすべての会計領域への導入が決まっており、2024年度には本体稼働を、そして2025年度から2027年度には全世界・全グループへの展開を予定している。またそれ以外のロジスティクス系や、SCMへの展開も検討を進めている段階だ。
MMDX2.0を通じて経営改革の実現を目指す三菱マテリアルは、AWSという強力なDXパートナーを得た。この両社のタッグなら、「競争力のある企業グループへの進化」という三菱マテリアルの最終目標に向け、ますます加速し進むはずだ。
導入企業
三菱マテリアル株式会社
創業:1871年
設立:1950年
資本金:119,457百万円
売上高:連結1,625,933百万円 (2023年3月期)
従業員数:連結18,576人、単体 5,450人