2020導入事例
東京化成工業株式会社 (導入:株式会社日立製作所)
DXを見据えた
BPRプロジェクトの
礎としてのSAP S/4HANA導入
IT主導ではなくビジネスチームが中心となった業務改善プロジェクトによってデータ・ドリブン経営を実現。
導入前の課題
業務プロセスを改善する中でブラックボックス化した情報システムをシンプルにしたい
導入後のメリット
業務の見直しでマンパワーに頼っていた部分を効率化しコスト削減
システムのシンプル化によってデータ・ドリブン経営が実現
グローバルでの人材育成によってIT 人材の枯渇という課題に対応
🔸グローバルビジネスを展開する試薬メーカー
東京化成工業株式会社は1946年に現社名に変更し、以来74 年の歴史を持つ化学メーカーだ。医薬品や化学製品、電子材料などの製品原料の供給という試薬合成と、顧客からの注文で化学薬品の製造を行う受託合成という2 の柱を持ち、取り扱う製品は3 万点を超える。また日本だけでなく、アメリカ、欧州、インドなど6 カ国に拠点を持ち、800名の社員を有する。 同社は2004 年にSAP R/3 を導入し、2008 年にECC6.0 にバージョンアップを実施。SAP システムの導入によりシームレスな社内業務プロセスを構築でき、海外事業展開においても、他システムとの互換性の高さで業務の効率化を図ることができた。
しかし一方で、取引先との接続が増えたことでシステム構成やデータ構造が複雑化し、10 年以上使ってきたシステムはブラックボックス化していった。このことから、ビッグデータ、あるいはAI活用を検討する中で、データを活用したビジネスに俊敏に対応できなくなっていると考え、IT システムの「2025 年の崖」を前に、業務プロセスを含めた見直しが必要と考えた。
🔸BPR プロジェクトで業務プロセスを改革
ここで同社は、BPR ※プロジェクトの推進を決めた。多くの企業が既存システムに合わせて業務プロセスの見直しと標準化を行うというアプローチをする中で、同社は役員会の直下にプロジェクトチームを設置。IT 主導ではなくビジネス部門が中心となり、既存業務の枠にとらわれない現場に合った環境作りを目指してプロジェクトを動かしていった。 「「As-Is」−現在の姿と、「To-Be」−あるべき姿を描くこと、また、そのギャップをどうやって埋めていくかについて、それぞれの部門が持ち寄る形で進めました。システム導入費用を上回るリターンとそれをお客さまへ還元しビジネスを発展させるところまでを考えていました」(柳澤氏) ※BPR:業務の本来の目的を見据えて組織、制度、業務プロセス、情報システムを見直す考え方
柳澤 清和氏 東京化成工業株式会社 執行役員 兼 SCMユニットリーダー
🔸グローバルでスピーディな対応ができる日立
検討した内容はRFP にまとめられ、国内外のコンサルタント企業が提案を実施。その中で最終的に選定されたのはHitachi Vantara と日立製作所の合同チームだ。選定に至った理由は3つあると幸村氏は語る。「1つはグローバルでの対応力。海外拠点とのコミュニケーションもスムーズに行えること。2つ目はビジネス部門中心のシステム作りという少し違ったアプローチに対して前向きな反応があったこと。そして3つ目は「HFusion」というSAP S/4HANA の導入を支援する日立独自の方法論を使って、業界標準のものをスピーディかつ効率的に導入できると提案されたことでした」 日本の企業ならではのマインドを持っていることも、選定の大きな理由になったようだ。「グローバルプロジェクトのため英語で進めていましたが、すべてのメンバーの英語が堪能とは限らない。特に日本側の製造担当のメンバーとの十分なコミュニケーションを、日本語でも対応いただけるということも大きな決め手でした」(柳澤氏)
🔸コンバージョンではなく新規構築に
プロジェクト開始前の2017年、経営トップと主要プロジェクトメンバーがSAP社のグローバルイベント「SAPPHIRE NOW」へ参加し、SAP S/4HANA をはじめとしたソリューションの最新動向を入手した。そしてECC6.0 からの移行にあたってはSAP S/4HANAを新規に構築することを選択した。 「ブラックボックス化していたECC6.0をそのままコンバージョンすると、それを引き継いでしまい改革に繋がらないと考えました」(幸村氏) またSAP S/4HANA では新たな機能も増えており、それらを取り入れるためにも0 から作り上げた方が効率的であると判断した。
システム構築には化学業界向けテンプレート「SAP Best Practices for Chemicals」を適用し、一部アジャイル開発手法も取り入れて行われた。業界標準のシステムにしたのは可能な限りシンプルな構成にすることで再レガシー化を防ぎ、システムの維持を容易にするため。アジャイル開発を用いたのは、定期的にレビューを繰り返すことによって、開発当初と考え方や業務に合わない部分が生じたとき、すぐに立ちもどることができるためだ。ただアジャイル開発によってギャップを埋めることができるようになったが、開発期間が想定よりも長くかかったのは反省点だという。
体制面では、日立の提案を取り入れ「Site Readiness Leaders」というプロジェクトから独立した組織を作り、現場に近い声を反映してプロジェクト全体にフィードバックしていく仕組みを活用。プロジェクトを外の立場から定期的に評価しながら進められた。 導入にあたって苦労したのはユーザーのトレーニングだ。プロジェクトメンバー側と社内ユーザー側とのシステム導入による効果についての温度差を埋めるため、日立も専門のコンサルタントを用意し、システム開発と並行して初期段階から啓蒙活動を行った。また、グローバルプロジェクトということで各国拠点からメンバーが参加したため、会議の時間管理というグローバルならではの苦労点もあった。
幸村 祥生氏 東京化成工業株式会社 執行役員 兼 Global IT 部 部長
🔸データ・ドリブン経営
2020年5月にグローバルの各拠点でSAP S/4HANAを軸にSAP Analytics CloudやSAP Commerce Cloudなど複数のSAPシステムが同時稼働したことで、データのリアルタイムな共有が可能となり、本来目指していたデータ・ドリブン経営実現に向けた基盤ができた。浅川氏は「導入してすぐに結果が出た部門もあります。物流面ではお客様への回答が早くなり、製品の納入も早くなっています。コストが削減され会社として恩恵を受けた部分もあります」と、導入による利点を語る。IT 面ではSAP S/4HANA 導入によってブラックボックス化が解消されたと同時に、グローバルプロジェクトによって日本中心のITメンテナンス、改善ではない、グローバルな対応が可能になった。また2025 年の崖に向けて、社内でのIT 人材育成に繋がる道筋も見えてきた。 運用面では業務フローが統一されたことで、同じ機能に属するグローバルの社員が同じ運用を共有でき、何か問題が起こってもお互いにやりとりして解決に繋がるようになった。
そして今後の展望について浅川氏は「SAP で基盤ができたので、このデジタルデータベースを基にして製造のIoTやAIを使った作業の自動化など、お客さまへのサービスを含め、これからさらに効果を高められると思います。企業の競争力を上げていく上でも、SAPのデータが一番の基礎になると考えています」と語る。 現在はHitachi VantaraのAMS部隊が運用保守を支援している。今後もビジネスプロセス、ITの両面で定期的なレビューを行い、必要に応じて見直していくというサイクルで、常にビジネス基盤の最適化を図っていく。
浅川 直幸氏
東京化成工業株式会社
代表取締役社長
会社概要 東京化成工業株式会社 創業:1894年(明治27年) 会社設立:1922年(大正11年) 資本金:5800万円 従業員概数:570名(国内)800名(国内外)
🔸パートナー企業
株式会社日立製作所